2011年5月28日土曜日

ハウンド・ドッグ / Hound Dog



ハウンド・ドッグ / Hound Dog

1957年、エルヴィス・プレスリーは、アメリカ南部、メンフィスのサン・レコードからデビューしました。白人でありながら黒人のように歌う彼のパフォーマンスは文化を変えるに十分な威力がありました。コンサート・ツアーによって徐々に知名度があがっていきます。

そして1956年1月、RCA ビクターからメジャー・デビューします。記念すべき第1作<ハートブレイクホテル>のヒットによって、その名はアメリカ全土に知られるに至ります。そして第三弾となった<ハウンド・ドッグ/冷たくしないで>の両A面による歴史的なヒットによってアメリカ全土の若者を熱狂させ、世界に伝染しました。

Hound Dog

You ain't nothin' but a hound dog
Cryin' all the time
You ain't nothin' but a hound dog
Cryin' all the time
Well, you ain't never caught a rabbit
And you ain't no friend of mine
When they said you was high-classed
Well, that was just a lie
Yeah, they said that you was high-classed
Well, that was just a lie
Well, you ain't never caught a rabbit
And you ain't no friend of mine




デビュー以来、ロカビリーからロックンロールへの変遷を猛スピードで疾走しながら、若者の魂を、その芯の芯から揺さぶり続けたエルヴィス・プレスリーの音楽は、<ハウンド・ドッグ>で頂点に達するとともに、アメリカの「常識」を激怒させるに至ります。ロックンロールは反抗のメッセージというイメージが固定したのも、<ハウンド・ドッグ>事件の結末です。

そのステージでのパフォーマンスは、卑猥と攻撃され、そのビートの効いた歌声は、
フランク・シナトラに「チンピラの歌」と言わせました。

しかし、何より、世の大人を震撼させたのは、永年にわたってアメリカの常識が守り続けてきた「黒人は白人より劣っている」という不文律が、田舎出の下層階級の青年によってボロボロに引き裂かれたことであり、自分の娘や息子が自分たちよりエルヴィスを支持したことでした。

エルヴィス・プレスリーは肯定こそすれ、誰かを、あるいは何かを否定したわけではありませんでした。エルヴィスの音楽がエルヴィスの意識とは関係なく、白人も黒人も対等なんだとメッセージしただけであり、リズム&ブルースもカントリーも同じ音楽だとロックンロールを通じてメッセージしただけでした。

1956年。1年の内の半分はエルヴィスの音楽がヒットチャートのトップを占領、そのどれもがミリオンセラーを記録します。

そこには音楽を越えた問題解決と新たな問題提起がありました。

黒人とどう接していいのか、訓練も教育もされていなかった若者や良識のある人にとっても、もちろん差別主義者にとっても、アメリカ全土全国民を揺るがす事件を意味しています。

事実、エルヴィスは逮捕状を用意した警官に囲まれたなかでコンサートをしています。
爆発的な人気を背景に録音されたエルヴィスが歌ったクリスマスレコードをオンエアしたDJが解雇されたり、レコードが焼き尽くされたり、コンサート会場の貸し出し禁止などが相次いで起りました。


しかし、すでに世の中は従来の価値観から変わりはじめていたのです。
そして、1963年8月28日、黒人の公民権運動のために「私には夢がある」と訴え全米の黒人の心をひとつに束ねたマーティン・ルーサー・キング牧師率いる20万人のデモ行進がワシントンで行われます。
やがてその抗議は全米で黒人暴動という形で広がっていきました。

米ソ冷戦、ベトナム、国内外に問題を抱えたまま、3ヶ月後にフロンティアスピリットを訴えたジョン・F・ケネディ大統領暗殺事件が発生。さらに2年後の65年にハーレムでマルコムX暗殺、その4年後、北アイルランドで公民権運動が起こりました。 こうしてアメリカの問題は国内にとどまらず世界に広がっていきました。




<ハウンド・ドッグ>は、たとえば<イマジン>のように世界平和を訴えていません。政治的なメッセージを持っているわけではありません。
しかし、間違いなく、音楽がなし得た最大にして最高の文化革命でした。

「黒人は白人より劣っている」、「女性は男性より劣っている」・・・あらゆる機会を通じて巧みに装いながら他者の劣等性を語り、恐怖心を煽り、依存心を育て上げるカラクリと人心をコントロールしたい者に熱い一撃を食わした事件でした。

<ハウンド・ドッグ>と<冷たくしないで>・・・
激しさの裏側では、君が冷たくしても、ボクはボクを見捨てないとユーモアたっぷり、タフに歌います。

この両A面シングルは、劣等感、劣等性を押しつける世界への「自分はOK、あなたもOK」と宣言した人間賛歌でした。

ジョン・レノンもボブ・ディランもエルヴィスに揺さぶられて目をさました人たちでした。彼らもエルヴィスのように揺さぶり目をさまさせてやりたいと思った人でした。そして彼らはよりストレートに伝えることで、扉を開きました。

つまり、ある人々にとって、エルヴィス・プレスリーの足跡は分りにくいのです。
しかし、アメリカを歩いてみたら分ります。都市伝説化したエルヴィスのゴーストが町をウロウロしている現実に触れたら、エルヴィス・プレスリーについて考えてみたくなるでしょう。

<ハウンド・ドッグ>は10週連続、<冷たくしないで>は11週。シングル両面でヒットチャート21週連続トップとなるギネス認定最長記録を確立。驚異的な ベストセラーを続けました。

その一番の理由は、セクシーな声と、これ以上はない、ふさわしいパフォーマンスで、自分との関わり方を教えてくれたからではなかったでしょうか?
当時は、そこに人を大切にする愛が溢れていたなんて、誰も思わなかったかも知れません。奇妙な光景に思ったかも知れません。

しかし、ロックンロールが巨大なビジネスになることが分かった瞬間でもあり、ロックンロールは反抗のシンボルに打ってつけだと分かった瞬間でした。

「エルヴィス以前にはなにもなかった」・・・・
ジョン・レノンの言葉、そのままに、良い見本のすべてであり、悪い見本のすべてになりました。エルヴィスのようになりたい、エルヴィスのようになりたくない。・・・・エルヴィスは教科書になりました。おかげで、エルヴィスは誰より尊敬され、誰より踏みつけられました。

エルヴィス。プレスリーが、自らの良識と良心によって表現した<ハウンド・ドッグ>を、どのように聴くかは、聴く人それぞれの良識と良心にまかすしかありません。

人は対等。
お年寄りであろうが、
赤ん坊であろうが、
尊敬すべき対象です。

<ハウンド・ドッグ>が教えてくれたことです。。

聴衆に向かい「ありがとう、大変ありがとうございます」と死の間際まで律儀に、
他者の尊厳に敬意を表し続けた男のロックンロールを、本当になって、本当になって聴いてみてください。
 
音楽と文化と歴史が、そして人間が熱く交錯した瞬間を考えてみてください。

これがエルヴィス・プレスリーのロックンロールです。

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